問わず語り

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おれの(うぢ)な、息子死んだばっかしでよ、 孫一人いだんだわ。めんっこい(かわいい)孫でな、(おどご)の子。 まだ…いづっつ(5歳)だったぁ。 嫁はー、息子死んだっけ出で行った。他所の(おどご)と出来てな。 だれが、手引ぎした(やづ)、いだがも知んねぇな。 俺と孫ふたりだら追い出しやすいもんな。 目ぇつけらいでだと思う。(目をつけられていたんだと思う) 3月になるとな、急に(あった)けぐなるのよ、おらぃの村。 あれいづだったべ。3月のすえ、4月だったべがな。 村長の息子来てよ、言うの。 「儀助さん、お孫さんと一緒に、お参りさ行ってけねがなぁ」(行ってくれませんか) 「おれだちが。なして」 「なしてってよ、(はだら)き手、いねべよ」(どうしてって、働き手がいないでしょ) 「おれ働ぐもの」 「もう決まってっから」 俺だぢみてぇな、畑持ってでも働げない年寄りだの、 もう治んね病気さ持ってる奴だの、お参りさ出すんだ、おらぃの村は。 そうせば、畑ば村の若ぇのさくれられるべ?(村の若い人に与えられるでしょ?) 孫だげは村さ置いでやってくれって頼んだけど、 駄目だったな。 どごも育てれねんだと。(どこの家も育てられないんですって) 悔しぐねぇがって? そりゃ悔しいって…そんなもんでねえよ。 死にに行げって言われでんのとお同じだもの。 したけどな、俺が行がねば、村の誰が、行ぐんだも。 んでねぇば、いっぺ死人でるぞ。 そったら(そんな)風に、ずーっと(むがし)から、やってきたんだべ? 俺もそうやって村ば出で行った人、 拝みながら見送(みおぐ)ったごとあるもの。 何回も。 だぁれも泣いだりわめぇだりしねで、「行ってきます」っちゅって(と言って)、 頭下げて出でいったぞ。
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