問わず語り

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俺らはな、このからだ、借りで(はら)から出で来たって親が()うんだ。 したから息子さも、孫さもそう教えだ。 それば、返しに行ぐんだがな(返しに行くのかな)、って思ってらぞ。 しばらくもしねぇうぢによ、いろいろ届ぐんだわ。 笠、杖、白衣、地下足袋、脚絆、札ばさみ、頭陀袋。 念珠だの鈴だの。 袈裟、経本。 孫さもよ、ちゃんこいの(小さいの)あつらえでよ。 孫だらほんつけねくて(わかっていなくて)、 どっかさ行げるって喜んでらな。 それはぁ、不憫だった。 行ぐ日にはよ、 真っ白いでっかいにぎり飯、俺さ三つ、孫さ三つ届いだ。 こったら、米の飯、食ったごとねぇ。 贅沢(ぜーたく)中の贅沢よ。 あつらえでもらったもん着て、 頭陀袋さ、身の回りの物詰めで孫と二人で、 村の入り口さ立った。 村長と息子、兄貴の息子夫婦、子供らぁ、来てだな。 兄貴はもういねえ。去年川で溺れで死んだんだ。 野良さ行がねぇ年寄り、子供もいだった。 村長が手形ば俺さ渡して、 「行ってらっしゃい」 だと。 それば合図さしたみてぇにみんな俺らさ向がって、 手ぇば合わせだ。 俺は笠ば脱いで 「行ってきます」 って今まで見てきたみてぇに、(あだま)下げだ。 そん時になってようやぐ、孫もなんか分がったんだべな、 火ぃついだように泣ぎだした。 むりっくり(無理やり)手ば引っ張って、村ば出た。
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