幼稚園のバス

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幼稚園のバス

 いつも通りの時間に息子の手を引き家を出て、広めの通りの道路脇に立つ。  息子が通う幼稚園には送迎バスがあり、いつもこの場所で息子はバスに乗り込む。  ほら、今日もバスがやってきた。  扉が開き、息子が元気な挨拶をしながらタラップを上る。その時、こちらを見ている運転士さんと目が合った。  お願いしますと一言告げ、会釈をした瞬間気がついた。  この運転士さんは、息子が幼稚園に入った時からずっとこのバスを運転している人で、同じ幼稚園に子供を通わせているママさん達みんなと顔見知りだ。  そのネットワークで聞いた話によると、連休前、急な病で亡くなってしまったいうことだったが…。  きっと私の聞き間違いだ。そう思いつつもう一度相手の顔を見た私の目に映ったのは、本人であることは間違いないのに、人として明らかにあり得ない色をしている運転士さんの顔だった。  反射で、座席へ向かおうとする息子を後ろから抱き上げ、私はバスを駆け下りた。  幼稚園が大好きな息子は、私の行動に不満の声を上げ、べそをかき始めたけれど、私は息子を決して離さず、後も見ずにバスの側から立ち去った。  その日の昼近く、ママ友から連絡が入った。  送迎バスが行方不明になり、何人かの園児達が幼稚園に着いてないという。  私は家に帰った後、息子は急な熱が出たので休ませてほしいと園に連絡していたので、ママ友にも、そういう理由で今朝はバスに息子を乗せなかったと嘘をついた。  その後、他のママ友からも何件か連絡が入ったけれど、はっきりしたのは、やはりあの運転士さんは亡くなっていたということだけで、バスと子供達の行方は判らないままだ。  もし私が運転士さんの異常な姿に気づかずいたら、うちの子もバスと共に行方不明になってしまったのだろうか。  あのバスには息子の友達も、私の友達ママの子も乗っていた。だから早く子供達が戻ってくればいい。…それは間違いなく本音だけれど、心の片隅に、うちの息子が行方不明にならなくてよかったと思っている自分がいる。 幼稚園のバス…完
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