捨て猫はカウベルを鳴らして

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「えらいご無沙汰だったけど、今までどこにいたの」  ぼそりと言った。 「徳山」 「なんで、また、徳山に? そこで歌ってたの」 「うぅうん、ベスが付いて来てくれって言ったから、つい」  ということはベスとも大人の関係ができていたということか。想像はついていたが、やっぱりと思った。 「徳山って、どんな街?」 「街。っていうか私は村しかしらない、っていうか、集落かな。山道歩いてたら猪とか普通に歩いてて、初めはびっくりしてたけど、みんな平気なのよ。 瓜坊って知ってる? 猪の子どもよ、そりゃ、かわいいけど、捕まえてこっそり飼ってる の、どうするのかと思ったら、大きくなったら食べるんだって。村じゃぁ、当たり前のそ れも重要なタンパク源、ごちそうなの。ほんとう、凄い田舎でさぁ、風邪引いても病院と かないし、生姜湯飲んで我慢してたら、一〇日に一回くらいバンでお医者さんが回診に来るのよ。びっくりでしょう」 「なんでまた、そんなとこに」 「ベスのおふくろさんがね、おやじさんが死んだ後もそこで独りで農業やってたんだけど 、石につまづいて転んで足、骨折してね、帰ってきてくれってベスに泣きついてきたって わけ。ベスって一人息子なのよ。私は成り行きでついて行ったけど、結構居心地よくて、 そのまま居着いて、気がついたら五年経ってた」
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