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突然、体が軽くなった。何が起きたかわからなかった。
上を見るとそこには弟の姿があった。僕の手を握っている。そして闇の底から僕を救い出そうと、懸命に引き上げようとしている。
これで僕は出れる。自由がやってきたのだ!生きるぞ!
僕は手に力を込め、一気に光の方へ這い出た。
その瞬間、僕の横を黒い影が通り過ぎた。なにかが闇に向かって落ちていった。なにが落ちていったのかは分からないが、僕には関係ない。
穴を見下ろしながら、僕は弟に感謝の言葉を掛けたいがために周りを見渡した。だが周りには誰もいない。弟がいないのだ。先に帰ってしまったのだろうか。薄情なやつだ。家に帰ったら好きなものを食べさせてやろう。トンボでも食べさせてやろうかな。どんな顔をするだろうか。
僕は穴から出るために仲間を何人も見捨てた。僕のことを恨んでいる仲間はたくさんいるのだろう。仕方ないのだ。生きなければならない。僕はあの女を守る使命があるんだ。絶対にこんなところで死んではいけない。
早く家に帰ろう。弟にも会いたいし、あの女にも早く会いたい。元気にしてるだろうか。思い切り抱きしめたい。
久しぶりに穴の外に出たからか、家の方向がわからない。周りに誰もいないので聞くことも出来ない。まあいいか。ゆっくり帰ればいい。僕には待ってくれる仲間がいるから。
一歩踏み出した瞬間、僕の頭上に大きな楕円形の影ができ、僕はその影に踏まれた。
嘘だろ。やっと穴から出たのに?嫌だよ。俺は帰りたいんだ!生きたいんだ!死にたくない!
だが、大きな影に踏まれた体は大きなダメージを受け、僕は瀕死状態になっていた。体が全く動かない。
死にかけの体で僕は思った。
そうか。僕は所詮こうなる運命だったのか。いくらあの穴にはまらなくても、いくら仲間を犠牲にしても、生きる希望をいくら持っていても。全く意味なんてなかったのか。
―僕は所詮、ただの1匹の蟻にすぎないのだ。 蟻地獄から抜け出したところで人間に踏まれるだけの一生が待ってるだけなのだ。
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