1/10
前へ
/73ページ
次へ

王都。 荷馬車に乗ったジギスムント・グロスマンが姿を見せた。 荷馬車の積荷には何も被せていないので遠目からでも剣士が何を成したかが分かる。 衛兵から賞賛の声を浴びながら門をくぐり抜け、 街中では住人たちの歓声に手を大きく振り返しながら城の広場に向かう。 ドラゴンの頭を降ろすのを城の兵士に任せ、剣士はあてがわれた控室に向かう。 ドラゴン退治の話を聞いた人々がジギスムントに挨拶に来る。 その中には、アブザウバー家の当主エッカート・アブザウバーもいた。 「これは、名門アブザウバー家の当主様から挨拶をいただけるとは光栄だ」 ジギスムントは足を組んだまま左手の酒を掲げて答える。 エッカートは窓の外で荷馬車の積み替え作業が行われている青いドラゴンを見て、叫んだ。 「あのドラゴンをどこで殺った?」 ジギスムントは、急に様子が変わったエッカートの今にも掴みかかってきそうな勢いに押され、 テーブルの上の地図を指差しながら「ここです」と普段の口調で答えた。 ジギスムントが指し示した場所はエッカートの屋敷からはそう遠くない山の中だった。 エッカートは指し示された場所を短剣で突き刺し、地図を掴むと無言で部屋から出ていった。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加