嘘つきの恋

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その時に友達に聞いた話しがもうひとつ、サキはその幼馴染の女の子が好きだったらしいという話し。そして現在進行形でまだ好きなのではないか? という憶測。 サキからそんな話しは聞いた事がないオレだったが、彼の弟であるαのシキが、たぶんその同一人物であろう赤髪の幼馴染に入れあげている事は知っていた、だからオレはその娘がΩなのだと信じて疑いもしていなかった。 弟の想い人を兄が奪う訳にはいかないと、サキはそう思っているのだと思っていた。サキは寡黙であまり自分を主張しないから。そんな所も格好いいとオレは勝手に思っていたのだ。 けれど、もしかしたら違うのかもしれない、とオレは気付いてしまった。サキは、本当は寡黙なのではなく何も考えていないだけ、思慮深く考え込んでいるようでいて、ただ黙って物事が動くのを待っているだけ。彼は自分で考え動くという事は全くしていないのではないのだろうか? とそんな疑惑がオレの中に湧き上がってきているのだ。 サキがオレに向かって「俺を選べ」と言ってくれた時、本当に嬉しかったんだ。だけど冷静に考えてみればサキは何ひとつ自分で決めようとはしていない「お前が俺を選ぶなら、俺はお前の番になる」そういうスタンスだ。なんだかソレっておかしくない? だったらオレがサキを選ばなければ、サキは自分を選ぶ別のΩの番にだってなる可能性があったのではないか? たまたまオレが一番乗りで名乗りを上げたから番になれただけで、オレが何も言わなければ結局彼はオレを選んだりはしなかったのではないのだろうか? その想像はなんだかとても真実味を帯びていて、オレは唇を噛む。 彼の唯一ただ一人の人間になりたかった、その為には手段も選ばなかったオレは淫乱のふりだとてしてみせた、けれど彼は一度もそんなオレのなりふり構わない行動に見向きもしやしなかった。 それにも関わらず、本当の事を言って、初めてを全部彼に捧げたのに、オレに彼の放った一言は「お前は本当にとんだ淫乱だな」だったのだ。 確かにオレは誤解させるような事をいくらもしていたし、それを彼がまるっと信じているとは思ってもいなかったのだから自業自得な部分もある、けれど、それにしても、その言い方はあんまりではないか!
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