嘘つきの恋

26/36
前へ
/155ページ
次へ
『あんたも所詮淫乱なΩ、その辺にいる遊女と変わらない、大人しく足を開けよ』 嫌な記憶が蘇る、幼き日に目撃してしまった大人の情事。オレはぎゅっと瞳を閉じてその記憶を振り払う。 この村ではΩの人間をそんな風に蔑むような人間はいない、何故ならΩはほとんど全ての人間の母だからだ。子は母親を蔑まない、本来それは当たり前の事なのだ。 けれど、オレは本気で彼だけを一途に想い続けてきたというのに、サキは結局そんなオレの言う事を何ひとつ信じてくれなかった、そして、挙句投げつけられたのがそんな言葉では、オレの100年の恋も冷めるというものだ。 悔しい、悔しい、とても悲しい。 これはオレが何をしても、何を言ってもサキは何も信じてくれない、とそういう事だ。 サキはオレの項を噛んだ、オレはサキの番になった、けれどこんな気持ちで彼の番でいるのはとても辛い。番契約とは絶対のものではない、Ωの側から解除はできないが、αの側からなら一方的に解除はできる、その際Ωは精神的苦痛から命を削る事もあると聞くが、こんな状態で番になっている事を考えたら、この番契約は破棄してもらった方がずっといい。 オレはひとつ頷いて立ち上がる。 そうだ、そうしよう、この契約は無効だ、破棄してもらおう。きっとその方がお互いの為だから。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

192人が本棚に入れています
本棚に追加