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『ハルシオン、これは大事な事だからちゃんと覚えておいてね。あなたのここを噛んでいいのはあなたがずっと好きだと想える人だけ、それ以外の人に項を噛まれたΩは不幸になるわ、決して軽はずみに噛ませては駄目ですよ』
もう、ほとんど覚えていない母の記憶。そう言って母はオレに首輪を嵌めた。その頃の首輪はもう小さくなってしまって使ってはいないけれど、オレはその母の教えをずっと守ってきたのだ。
結果的には軽はずみに番契約をしてしまったという事になるのかもしれないけれど、あの時はサキならいいってそう思ったんだ。だって、オレはずっとサキが好きだったから。
「なぁ、ハル、お前は一体俺の何が気に入らないんだ? お前は俺を好きだと言った、あれは全部嘘だったのか?」
「嘘じゃない、けど、サキはオレを信じてくれない」
「信じない、信じないって、お前はずっとそれだ、俺はお前の何を信じればいい? 俺がお前の何を信じてないって言うんだ?」
「全部だよ、サキはオレの事何ひとつ信じてないだろ、全部サキにあげたのに、サキは何も信じない」
どこまでいっても平行線、これはサキに嘘を吐き続けたオレへの罰か? こんな事なら嘘なんて吐くんじゃなかった。
「俺がお前に淫乱だって言ったのが、そんなに気に入らなかったのか?」
「当然だろ、Ωはそういう生き物で、好きで生まれた訳でもないのに、そんな言い方されたら傷付くに決まってる!」
「分かった、だったらもう二度と、そんな言葉は使わない」
「サキが頭の中でそう思ってたら一緒だよ!」
「お前は……」
サキは頭を抱えて唸り声を上げる。
「だったら俺にどうしろって言うんだ! 目の前で股おっぴろげて俺を誘う俺だけのΩを目の前にして清廉潔白にただ眺めてろとでも言いたいのか! ふざけんなっ! 俺はお前を犯したくて仕方がなかった、ここまで我慢してたのだって褒めて欲しいくらいなのに、これ以上お前は俺に何を求める!!」
「そんなの、オレだって分からないよ……!」
ついにぼろりと涙が零れた。オレはサキにどうして欲しかった? 淫乱だと言われて傷付いた、それは自業自得だというのに、その言葉はオレの中身を酷く抉ったのだ。オレはそれが何故なのかよく分からない。
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