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「サクヤ、ただいま」
抱きついてきたのはこの家の主であり、年下の幼馴染、更に言えば遠縁の親戚にあたる男、名をルークという。
この小さな村ではほとんどの人間が親戚で、親戚なんて肩書きは付けるだけ野暮かもしれないけどな。
黒髪に黒い瞳、背は俺よりも大きくて見下ろされるのが腹立たしい。
「うっざ。離せルーク、俺は今忙しい」
「だってサクヤが家にいるなんておいら思わなかったもん、嬉しくて」
「仕事が一段落ついたからな、そんでもって来てみたら案の定部屋の中ぐちゃぐちゃだし、お前はこのゴミ溜めの中でよく暮らせるな」
「え~?まだ綺麗な方だと思わない?」
「思わない。正直不快だ」
言って俺はゴミなんだか洗濯物なんだか分からない布切れを拾い上げ、籠に放り込んだ。
なんで俺は自分が暮らしている訳でもないこの部屋を片付けているのか自分でもよく分からないのだが、その部屋の惨状はあまりにも酷かった。
どうにもこうにも耐え切れない。
ルークはにこにこ笑顔で俺の邪魔にならないソファーの上に座り込み、片付ける俺を嬉しげに見やる。
手伝ってくれても全然構わないんだがな、むしろお前がやれよ!と思わなくもないのだが、はっきりルークには家事の才能がない事を知っている俺は、まぁいいかと溜息を吐く。
下手に手を出されて余計な仕事を増やされるのも癪だ。
「サクヤはいつ帰ってきたの?」
「お前がやに下がってあの人の家に上がり込もうとしてた頃」
「なんだぁ、声かけてくれたら良かったのに」
誰がかけるか!
他人の恋路に首を突っ込むのは趣味じゃない。ルークがこの数年想い続けている想い人、その人の家に上がり込もうとしているそのタイミングで帰ってきて、その姿を見かけたとしても、何故にそこで声をかけなければならんのか。
俺は馬に蹴られるのはごめんだ。
「もういい加減諦めたらどうだ?あの人もう今ちゃんと番になってるだろ?さすがにユルイうちの村でも番相手のいる人間に手を出すのは常識的じゃないぞ」
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