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雨に濡れることがないとしたら、君はどう思うだろう?
夢でも見ていると思うかな。服が濡れなくて最高だと喜ぶかな。……それとも、寂しいと感じるだろうか?
オコノギさんの場合は「恥ずかしい」だったよ。
雨の日に、雨に濡れないってどういう状況か想像して欲しい。周りは色とりどりに傘を差した人、人、人。黄色いレインコートの子供や、素敵なデザインの長靴を履いた女性も混じっている。大きな交差点は花でも咲いたようにカラフルになる。
そこでオコノギさんは一人、日差しを浴びている。
空を見上げると、厚い雲に針でつついたような穴が開いていて、青空がのぞいていたり太陽が輝いていたりする。
オコノギさんが歩く。
すると、それはスポットライトのごとく彼について移動していく。
明るく照らされたオコノギさんを、人々はびっくりして眺めている。……余程の目立ちたがり屋じゃないと、ちょっとこれは辛い状態だよね。
何年も耐えたけど、オコノギさんは次第に町へ行くのが億劫になっていった。どうにかして都会で働かなくて済む方法はないかと毎日悩んでいた。
オコノギさんには妻と小学生になりたての息子が一人いる。くよくよしがちな彼に比べて肝の太い二人は、オコノギさんが雨に濡れないことをポジティブに捉えていた。
「もう雨の日に会社に……都会に行きたくないんだ。ずっと我慢してきたけど、もう限界だよ」
あるとき、オコノギさんがついに弱音を吐くと、妻のサナエさんは厳かに頷いた。
「前から考えていたんだけど、ここで洗濯屋を始めたらどうかしら。ほら、うちの庭は無駄に広いから、洗濯物を百枚以上干せるでしょ? それであなたの力を使って日に当てて乾かすのよ。良い考えだと思わない?」
「面白いけど、それで生活していけるのかなぁ……」
オコノギさんは心配していたけど、サナエさんは自信たっぷりだった。弱気になっていた彼はじきに妻の案に乗ることにした。
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