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オコノギさんの悩みは、自分の人間としての意味にあった。こう書くと難しそうだけど、ようは自分と洗濯乾燥機の違いに自信が持てなくなったんだ。
「乾燥機はたくさんの洗濯物は乾かせないでしょ?」
サナエさんはそう言って慰めたが、オコノギさんは納得しなかった。
「乾燥機を何台も置いたら同じじゃないか? 僕の人間としての価値って何だろうね?」
そのとき、両親の会話を聞いていた息子のシュンタ君がにいっと大きく笑顔になった。
「ねえお父さん、明日、ボクたちを遠足に連れてってよ」
「何だって?」
「遠足、楽しみにしてたのに、明日雨だとなくなっちゃうんだ。ねえ、良いでしょ?」
翌日、洗濯屋は臨時休業となり、オコノギさんははしゃぐ小学一年生たちを引率して町外れの野原まで歩いて行った。
そこでオコノギさんが腕を大きく広げると、あたり一面に光はさんさんと降り注ぐ。
子供たちはそれは大喜びで、かけっこに縄跳び、鬼ごっこにと、一日中楽しんだ。
オコノギさんは腕が痛かったけど、とても満ち足りた気分になったんだ。
てるてるさん、と子供たちは彼を呼んだ。そのあだ名がとても素敵なものに思えるようになったんだな。
その日、家に帰ったオコノギさんが晴れやかに笑っていたから、サナエさんはとても安心していたよ。
「明日から、また洗濯屋の仕事を頑張るぞ!」
「そうね。今日はお休みしたから、また洗濯物の山が来るわよ」
「それは大変だ」
口ではそう言いつつも、オコノギさんは嬉しそうだった。自分が誰かの役に立っていると実感するのって、そりゃいいもんだからね。
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