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 白い月は間近にあるかのように大きく、夜も深いと言うのに、昼日中のような明るさだった。  末席とは言え、帝に仕える身分の者が多く住むこの界隈は、そこそこ大きな屋敷が並んでいる。  どの屋敷も疾うに寝静まり、行き交う人などいようはずもない時間帯に、ぽつり、と白い狩衣姿の青年が一人佇んでいた。  長い髪を首の後ろで一つに結わえ、無造作に切られた前髪を揺らして辺りを見回す。  その頭上で、ひゅう、と風を切る音が響いて、引かれるようにそちらを見上げた。  聞こえた音は一度きりだったはずだが、目をやった先には大きな獣が静かにこちらを見ている。  獣。  そう一括りにしまうには、些か大き過ぎる。それに。 「…ほう、猿の頭、虎の手足。蛇の尾。(ぬえ)じゃな」  隣に並んだ黒の直衣を着た老人が白く伸びた髭を撫でながら愉しげに言う。頷きを返しながら、ちらりと目だけで見やると、子供のように輝く目を認めて、やれやれと嘆息した 。 「先生、楽しむのはほどほどにしてくださいよ」  窘めるように言うと、老人はバツが悪そうに口を尖らせる。 「固いことを言うのう、お前は」     
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