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濡れた髪を拭きながら、凪子はそろりと紙を開き、目を瞠った。
「――― へぇ。安倍晴明に並ぶと言われていたのは、本当みたいね」
ヒーターの側で十夜の毛を丹念に拭いてやっていた美羽が顔を上げる。
「そんなに凄いんですか」
「凄いわね。とにかく緻密。非の打ちどころがない。理論の穴という穴を埋めて作り上げたという感じ。三重構造なんだけど、それぞれが補い合って上手く循環しながら増幅し合うようになってる。これ以上の封印術は無いわ。まさに完璧」
「そんな完璧でも、鵜野は破ってしまったってことですか」
ふんわりとした十夜の毛を柔く撫でてから、美羽は立ち上がる。
「千年封じてたのよ。十分だわ」
肩を竦めて答えた凪子はローテーブルに符を置くと、事務机の邪魔にならない位置に美羽が湯気の立つカップを置く。ふわりと立ち上る甘い香りに、ふと目を上げた凪子がカップを見た。
「ココア? 」
「ホットチョコレートにしました」
「美味しそう」
手を止めてカップに口を付け、一口嚥下すると、自分が冷えていたことを改めて知る。息を吹きかけて湯気を散らしながら半分ほど飲むとすっかり体が温まった。
「ありがと、美羽ちゃん」
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