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 静けさを嫌うように独り言ち、いくつかの印を組む。キン、と甲高い金属音が響いて、教会の周囲の空間が切り取られ、別次元に固定される。これで、この場でどれだけ暴れても元の礼拝堂に被害は及ばない。  鵜野は、この教会に戻っている、と凪子は踏んでいた。だから、礼拝堂だけでなく教会全てを結界の内側に設定した。 「――――― そろそろお出ましかしら」  呟きを聞き付けたように白い床に波紋が広がる。一つ二つと現れたそれは、とぷり、と波打って淡い光を発した。凪子の口の端が小さく上がり、面白そうに見る視線の先で、突然波紋の中心が盛り上がり、何かが頭を(もた)げた。  起き上がるように現れたのは、グロテスクなぬるりとした鯰のようなクリーチャー。  歪な身体はぬらぬらと光を弾き、鯰は体をくねらせて床から這い出てくる。藍色の双眸が凪子を捉えた。  すぅ、と細まったと思うと、おもむろに口を開く。  凪子は口の端の笑みをそのままに、ジャケットのポケットから四枚の札を出した。同時に蛟の口から連続で光球が放たれる。器用に扇形に広げた札を宙に撒くと、札は凪子の正面と天地左右にそれぞれ滑り静止した。  凪子めがけて向かってきた光球を札が作り出す不可視の盾が受け止める。ばちばちと火花を上げ、真っ白な光を発して爆ぜた光球は、煙を残して消えた。  鯰は思案するようにちろりと舌を出す。 「成程、あの宝玉の雷の力はあんただったのね」     
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