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体のあちこちで火を噴いた札に揉まれるように身体を跳ねさせた鯰だったが、爆煙が晴れると、ぬるりとした身体をそのままに、平然と佇んでいた。
勝ち誇ったように藍色の目を細める鯰に、凪子は片眉を跳ね上げてふん、と鼻を鳴らす。
「そのぬめった皮膚が曲者ってわけね」
頷きながらジャケットのポケットに手を入れる。
「それなら奥の手を出さなきゃね。さあ、再開しましょう」
片手をポケットに入れたまま、空いた手でちょいちょい、と鯰を招いた。
さっきの攻撃を凌いだことで自分の優位を確信したらしい鯰は、ゆらゆらと身体を揺らし、凪子の様子を窺う。半ば挑発しているようにも見えた。ぬるりと太い舌が覗き、余計に小馬鹿にしているように感じられる。
「ナメてると痛い目見るわよ」
すぅ、と目を眇めて言い放つ凪子の気配が冷気を帯びる。それを感じ取ったのか、鯰は身体を揺らすのを止め、忙しなく数本の髭を蠢かしながら様子を窺っているようだった。
しばし睨み合い、不意に鯰がぐん、と仰け反り、次の瞬間には眼前に牙が迫る。後方へ跳んで躱し、札を一枚、刀に変化させた。鯰が再度、身を仰け反らせたところへ一歩踏み込み、下から上へ振り抜く。それを読んでいたらしい鯰は尾を振るって刃に当て、切っ先を逸らした。
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