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 このまま押し問答をしても仕方がない、と考え、凪子は組んでいた腕を解いた。 「まあいいわ。ウチの使役がお邪魔してるわよね? 返してもらいに来たんだけど」  まるで物を強請るように片手を突き出す凪子に、鵜野はくつ、と喉を鳴らして笑う。 「さて。本人が帰りたいと言えば、帰してやっても良いが」  面白がるような口調で言い、鵜野は左手をひらりと揺らした。すると、祭壇の前の床が水滴を一つ落としたように波紋を描き、そこから白い影が飛び出す。  ふわりと降り立った姿を認めて、凪子は言葉を失った。  白い髪と、両のこめかみから後頭部へ向かって伸びるやや湾曲した象牙色の角。眉も睫毛も乳白色に変わり、赤い双眸だけが浮き上がるようだった。  凪子は両脇に垂らした手を関節が白く浮くほど握りしめ、鵜野に低く問う。 「……朱雀に、何をしたの」 「鬼の本性に目覚めさせてやっただけだ」  事も無げに返す鵜野を睨めつける凪子のデニムのポケットで携帯が震えた。耳に当て応答するより早く、大陰の声が届く。 『準備できました』 「寄越して」  一言だけ返して、携帯を耳から離すと、見計らったように小さなディスプレイに五芒星が現れた。     
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