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 猛禽類のように鉤状になった爪が眼前にあり、思わず息を詰める。ふっ、と軽くなったと思うと、逆の手が横合いから襲ってきた。身体を沈めて躱し、足首を狙って蹴りを出したが後ろへ跳んで逃げられる。  素早く立ち上がり間合いを測りながら腰を落として刀を構えた。じり、と横に移動しながら出方を窺う。  朱雀は無造作に立っているようで隙が無い。以前対峙した時とは違う。  ちりちりと産毛が逆立つような「鬼気」。瘴気(しょうき)とも違う、禍々しくも鮮烈な気配は、感動すら覚えた。  異形である自分を嫌悪してきた朱雀は、人間としての気配の方が強い。それが一度解放されるとこれほどに純粋な力の塊となるのか。  今のその姿も気配も、凡そ「人間」とは程遠いもの。朱雀本人が見たら恐らく忌み嫌うだろうと思われた。 「―――――― ちゃんと、戻してあげる。頼むから早まったりしないでよ」  口の中で呟いて、腰だめに構えて低い姿勢で床を蹴る。下から斜めに振り抜いた刀を片足を一歩引くことで避けた朱雀は、凪子の項を狙って鉤爪を振り下ろした。返す刃で爪を受け流し、一旦後ろに下がった凪子は、すぐに弾丸のように突っ込む。腰を捻って引いた刀を反動を利用して突き出す。くるりと踊るようにそれを避け、朱雀の手が刀を握った凪子の手首を掴んだ。  ぎし、と骨が軋み、思わず刀を取り落としそうになるのを堪える。その間に、朱雀が空いた手に炎を生み出した。     
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