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 黒い炎。  目の端にそれを捉えた時は小さな火種だったものが、それと認めて目を向けた時には、大きく膨れ上がっていて、ぎょっと目を剥く。  距離を取ろうにも掴まれた手はびくともせず、ポケットから札を抜きながら舌打ちをする。間に合わない。 「主様! 」  鋭い声と共に視界の両端から影が伸びた。  ごっ、と鈍い音がして黒い炎が障壁に阻まれる。  熱した鉄板に水を撒いたように弾ける音と水蒸気が辺りを包んだ。  凪子の背後から大陰が腕を伸ばし、高速で回転する水の膜で盾を作り、支えている。だが、元々朱雀と大陰では朱雀に分がある上に、鬼の力を解放している今となればその力量の差は歴然で、一見相殺しているように見えて、水の盾は徐々に黒い炎に浸食されていた。 「―――― っ、もう、こういうとこホントむかつく……っ! 」  奥歯を噛みしめて唸るように言った大陰は、更に力を練り上げる。凪子は取り出した札に息を吹きかけて宙に放ち、人差し指と中指を立てた刀印を唇の前で結んだ。  放たれた数枚の札のうち半分は大陰の盾に貼りつき、半数は朱雀の周囲に展開した。盾に貼りついた符に書きつけられた文字が赤く発光し、水の膜を虹色に染める。     
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