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黒い炎の浸食を食い止め、力が拮抗する。
だが、互角では駄目だ。
「急々如律令」
凪子の声に呼応し、朱雀を囲んだ札が次々に爆発する。
手首を掴んでいた手が緩み、凪子は大陰と共に後方へ跳んだ。
視界を遮っていた煙がゆっくり薄れ、床に膝をついたシルエットが見えてくる。大通連を握り直し、息を詰めて様子を窺った。
ゆらり、と立ち上がる。俯いていた顔が上がり、無感動な赤い瞳が凪子に向けられた。
凪子と大陰も立ち上がり、それぞれに構える。
「あれでやれたとは思ってなかったけど、ノーダメージとはね」
片目を眇めて口の端で皮肉気な笑みを乗せた凪子の隣で、大陰はじっと朱雀を見ていた。
「―――― あれ、朱雀ですか」
固い声音に、ちらりと一瞥してから頷く。
「そうよ。鵜野が鬼の力を解放した結果が、あれ」
「何て言うか……こんなにも気配が変わるんですね」
神妙な面持ちで言った大陰はそっと腕を擦った。
「正直、勝てる気がしません」
珍しく弱気な発言をする大陰の背を軽く叩き、不敵な笑みを見せてやる。
「私がいるでしょ。大丈夫よ」
大陰は凪子を見返し、詰めていたらしい息を吐いた。
「はい」
頷いて朱雀に目を戻す。
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