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 勢いに乗って一瞬で間合いを詰め、朱雀の首元をめがけて左腕を薙いだ。  顔の前で腕を交差させてそれを防いだ朱雀が、腕の向こうから大陰を見る。  白い髪の隙間から覗く、ガラス玉のような赤い瞳に、ぞくりと総毛立つのを感じ、大陰が退こうとするより早く、朱雀が腕を力任せに払った。  宙でくるりととんぼを切った大陰は着地と同時に再び飛び込んで行く。  急所を狙った連撃をことごとく阻まれ、舌打ちと共に振り上げた脚に、凪子の札が三枚、するりと貼りついた。  刀印を結んだ凪子が口の中で呪を唱えると、札を纏った大陰の左脚が黄金に光を放った。稲妻のような奇跡を描いたそれにガードの腕ごと側頭部を蹴り抜かれ、朱雀は並んだ木製のベンチを薙ぎ倒すようにして吹き飛ぶ。  音を立てて倒され重なりあったベンチに埋もれていた朱雀が、ゆっくりと身体を起こし、こめかみから伝い落ちた赤い雫を手の甲で拭い、横倒しになったベンチに手を掛けて立ち上がる。  一つ頭を振って顔を上げた朱雀の表情に、凪子と大陰はふと目を瞠った。  赤い双眸に、戸惑いのようなものが見える。 「……朱雀……? 」  そろりと大陰が声を投げる。  つられるように目を向けた朱雀だったが、不意に顔を顰め、こめかみに手をやった。     
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