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その指先があるはずのないものに触れ、顔が強張る。
ゆらり、とその身体が揺れ、右手側の窓へと目を向けた。
外は闇。
ガラスは鏡のように朱雀の姿を映し出す。
赤い双眸が大きく瞠られた。
は、と息を吐き出すように笑う。
否。
嗤った。
「……何だ、コレ。いよいよ完全に化け物だな」
自嘲気味に呟いて、猛禽のようなその爪を自身の首に向ける。
そのまま掻き切ろうとする手を、大陰が掴んで止めた。
口を引き結び、泣き出しそうなくせに睨めつけてくる薄青い瞳を、朱雀は不思議そうに見返す。
「あんたの魂は私のを半分あげてるってこと忘れないでよね、朱雀。言ったでしょ。私たちは一蓮托生。私があんたを切り離さない限り、繋がってるって。勝手に無駄にしようとしないで」
淡々とした口調で言いながら朱雀の前に立った凪子は、大通連を握り直し、朱雀を見据えたまま、未だ傍観を決め込んでいる鵜野に切っ先を向けた。
「あいつを屠ったら、いくらでも元通りにしてあげるわよ。そんなもの、あたしは気にしないけど」
気だるげな拍手が堂内に響く。
「なるほど、なるほど。なかなかの三文芝居だった。もう少し楽しめるかと思ったが、拍子抜けだな」
凪子は殊更にゆっくりと目を向けた。
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