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矢を番えたとき、鴉が羽根を一斉に放った。黒い針のようなそれが雨のように降り注ごうとするのを、凪子の呪を纏った大陰の水が床から天井へ向けて一息に迫り上がり、壁となって遮る。水に勢いを殺がれた羽根がひらひらと舞い落ちる中、朱雀は矢を番えた弓を引き絞り、キリ、と弦が鳴るのを聞きながら大鴉の眉間に狙いを定める。
赤い双眸の中で、瞳孔がネコのように細くなった。
指を離れた矢が、一条の金色の光となって空を裂く。
水の壁を突き抜けた矢は、あやまたず鴉の眉間に深く突き立った。
そこは大陰が踵落としを、そして、陸王が蹄の一撃を見舞った箇所。
封じられた嘴からくぐもった断末魔が漏れ、大鴉の身体は光の粒子となって霧散した。
支えを失った矢が床に落ち、からん、と音を立てて角に戻る。
「小細工はやめて降りてきなさいよ、大将」
目を眇めて皮肉気に言った凪子を見返し、鵜野は口の端を片方だけ引き上げて笑うと、ふわりと降り立った。
「なかなかやる。だが、まだ我の相手ではないな」
「言ってくれるじゃない。まだ奥の手があるかもよ」
大通連の峰をとん、と肩に担いで言うと、鵜野が「ほう」と片眉を跳ね上げる。
「では、見せてもらおう、その奥の手とやらを」
「上等」
「……主様、ヤンキーみたい」
大通連を肩に担いだまま顎を逸らした凪子を半眼で見つめて、大陰がぽつりと呟いた。
それを聞き流して、凪子はくるりと手首を回し刀を目の高さに構えながら、腰を落とす。
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