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 鋭く気合の息を吐き、床を踏み抜くような強さで間合いを詰めた。喉を狙って突き出す瞬間、鵜野の眼前に突然蝶の群れが出現する。 「小賢しい」  嘲笑うような声を無視して刃を突き出すと、がつ、と何かに阻まれた。  ざわり、と音を立てて蝶が散り散りになる。  大通連の切っ先は、喉元に翳した鵜野の腕によって止められていた。 「……身体の金属化」  舌打ちしそうな面持ちで呟いた凪子は、さっ、と刀を引き、距離を取る。 「いくら封印されていたとはいえ、元々はただの術師と思ってたけど……。人体の変化は禁忌の一つ。あんた、自分に禁術を使ったわね」  険しい顔で告げる凪子に、さもおかしい、と言いたげに喉を鳴らして鵜野が笑った。 「我はそもそも、凡庸な陰陽師どもとは違う。呪い師だ。禁術など、我の前では無意味」  つい、と鵜野の指が朱雀を示す。 「良い例がそこにおるではないか」  凪子は朱雀を振り返る事はしなかったが、目の端で俯くのが見えて、鋭く声を投げた。 「顔を上げなさい、朱雀。あんたが恥じる事は何一つない。自分の行為を恥ずべきなのは、この男よ」  凪子を見る朱雀が、赤い双眸を瞬かせる。弓から麒麟の姿へと戻った陸王が、その腕に首を擦りつけた。それに目をやった朱雀の唇に、微かな笑みが浮かぶ。  突然、鵜野が弾かれたように笑った。     
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