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「大義を前に、恥ずべき事などあるものか。大願成就のために、多少の犠牲は仕方のないことだ」
「犠牲? 」
芝居がかった口調で言う鵜野を見返し、凪子は眉間に皺を刻んで問い返す。
にぃ、と鵜野の口の両端が持ち上がり、三日月のような弧を描いた。とん、と自分の胸を指す。
「――――― こやつは、我の子孫だと言ったな」
「残ってる系譜では、そうなっているわ。でも、違うんでしょう」
窺うように顎を引いて言うと、鵜野は鷹揚に頷いた。
「そう。我に子孫はおらぬ。―――――― 我が殺したからな」
笑みはそのままに、酔うように目を細めて言う。凪子は目を眇めて見返した。鵜野はとっておきの話をするように、勿体ぶって続ける。
「妻であった女の腹を裂き、その腹にいた赤子の血を浴びて、我はこの身体を手に入れた」
そう語る顔は愉悦に歪み、どこか人ならざる狂気を感じさせた。凪子は嫌悪感を露わに鵜野を睨めつけて吐き捨てるように低く言った。
「誰かを鬼に堕とすまでもなく、あんたが既に鬼そのものよ、この外道……! 」
「女とは皆同じことを言う。くだらん」
興が醒めた、とでも言いたげに、眉を寄せて笑みを消す。
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