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 凍りついていた腕を容易く引き抜いた鵜野は立ち上がり様身体を捻り、背後に立つ朱雀を狙って腕を鋭く払う。朱雀は右腕でそれを受け流しながら絡め取り、自分の身体側に引き込むようにして固定すると、脚を蹴り払って鵜野をうつ伏せに床に叩きつけた。狙い澄ましたように、大陰の氷が先程より分厚くその身体を包みこんで捕らえようとするが、朱雀の腕を逆に引いて投げる反動を利用し、身体を回転させて起き上がる。負けじと追い縋る大陰の氷が鵜野の足を片方、膝下まで固定したところへ凪子が素早く間合いを詰めて刃を突き出した。それを首を傾げるだけで躱した鵜野が自分の胸を示して口を開く。 「良いのか? こやつも殺してしまうことになるぞ」  凪子はにやりと笑ってみせた。 「御心配なく。この刀は特別なの。妖刀と呼ばれる所以、その身を以て知るといいわ」  言うと同時に刃を返し、袈裟掛けに振り下ろす。 「……な、に……? 」  驚愕に目を見開いた鵜野は、震える手で斬られた箇所に触れる。傷はおろか服すら切れてはいない。  しかし、忌々しげに凪子を睨めつけた鵜野の姿が不意にぶれる。鵜野が多賀城の身体から離れて、薄ぼんやりとした陽炎のようにそこに現れた。力を失って倒れ込もうとする多賀城の身体を、音を立てて伸び上がった氷が支え、そっと床に横たえる。  顔を歪めて胸元を押さえる鵜野の手の下、肩から脇腹にかけて、渋皮色の衣が裂け、大きな傷が覗いていた。 「鬼斬りの妖刀、大通連。異形を斬るための刀よ。だから、人間を傷つける事はないわ」  目を細めて笑った凪子の言葉に、鵜野がさらにその表情を歪める。 「言ったでしょう? あんたが外道だと分かれば、それでいい、って」 「おのれ、女……! 」     
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