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冷めたコーヒーを飲み干して言った朱雀を見やって、凪子が目で問う。
「鵺との一戦を知ってた」
「それは、あなたと夢を共有したのかもよ。最初に夢を見た時は、鵜野の傍にいたわけだし。より強く影響を受けたかもね」
得心したのか、朱雀は何も言わず、ソファに背を預けた。
十夜は考え込むように俯く。
「万が一にも人が迷い込んだ時の、守護のつもりだったのかしらね。結界を擦り抜けてしまう人間が稀にいるし」
「神隠しに遭っちゃうような人ですか」
「そう。結界は、目に見えない壁を作る場合と、その空間の時空を歪ませて不可視にする場合とあるんだけど、今回のケースは恐らく前者ね。壁を擦り抜けてその場所に入り込んだら、外からは見えなくなる。そういう迷子に対処するためでもあったんじゃないかな、と思って」
「何でそう思う? 」
「猫だからよ」
訝しげに眉を寄せる朱雀に笑ってみせて繰り返した。
「他のどんな獣でもなく、猫だから。犬を恐れて逃げる人はいても、猫を見て逃げ出すほど怯える人って、そう多くないと思うのよね」
「そういえば、そうですね。猫嫌いな人もいますけど、大抵は自分が逃げるんじゃなくて、追い払おうとするでしょうね」
美羽が頷いて同調する。
『―――― そうだ』
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