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ぽつ、と十夜が声を漏らし、朱雀はその小さな後頭部に目を向けた。
「十夜? 」
そっと呼ぶと、三角の耳がぴくりと動いて顔を上げる。
『ここは、お前が守れと、頭を撫でられた』
皺だらけで痩せた、老いた手だった。
温かい、手だった。
十夜は懐かしむように目を細める。
「それは多分、先生だったってことだよな」
唇に触れながら言う朱雀に目を向けた凪子は、目を瞬かせて「そうね」と返す。
「蘇芳を封じたのが透平であれば、当然そうなるわね」
唇に指先を当てたまま、朱雀は眉を寄せた。
「……なんで、覚えてないんだろうな……」
呟きに僅かな苛立ちを聞き取って、凪子と美羽はちらりと目を交わす。
「―――― まあ、千年も前のことだもの」
凪子の当たり障りのない曖昧な慰めは、空しく宙に消えた。
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