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4
外の朝靄が晴れぬうちに現われた師は、疲労の色濃い面に険しい表情を乗せていた。
気配に目を覚ました朱雀は、師の様子に驚いて身体を起こそうとしたが、老人の枯れ枝のような手がそれを制する。
「――― 今、呪いの源を突き止めた。摂政の薬師を狙ったのは、鵜野蘇芳という呪い師だ。居所は分かっておる。今から陰陽寮の術師二人と共に討ちに行く」
今度こそ、朱雀は飛び起きた。
「今から? 少し休まれた方が……そんなにお顔の色が悪いのに……」
「急がねば、姿を晦ましてしまうやもしれん」
「だったら、俺も行きます」
老人の目が鋭く見返し、朱雀はふと息を詰めた。
「ならぬ。お前に施した術はまだ安定しておらん」
「足手纏いにはならないようにします。だから……! 」
置イテイカナイデ。
言葉にせず呑み込んだそれは、頑是無い子供のようで。我儘でしかないその一言を言うのは流石に憚られ、朱雀は縋るように師の袖を掴んだまま唇を噛んで俯く。
けれど、老人はそれを正しく読み取って、その目許を和らげた。
「―――― すまぬな。わしにはお前を拾った責任があった。必ず帰ってくる。それは約束する。お前を一人にはせぬよ」
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