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 教会の門は、ここ数週間ぴたりと閉ざされていた。  日曜の礼拝にやってきた親子は、門の向こうの教会を窺いながら、心配そうに眉を寄せる。 「どうしちゃったのかしらね」 「神父様、ご病気? 」  母の呟きに、子供が眉を下げて問うた。母親は子供を見返して肩を竦める。 「電話にも出ないし、郵便受けもいっぱいになってるから、お留守なのかも。残念だけど、今日もお家でお祈りしましょう」  そう言って微笑んだ母親は、子供の手を引いて帰って行く。  去ってゆくその親子を、教会の二階で見送る影が一つ。  遮光カーテンの隙間から覗いていた多賀城は、窓際から離れて書棚の前に立つ。棚には、クトゥルーに関する本がぎっしりと収められていた。 「―――― 異国の神か。こ奴の中では、自身が仕える神よりも大きい存在のようだ。御し易い奴よ」  くつ、と喉奥で笑う多賀城の目は、黒い眼球に白銀の瞳。  鵜野蘇芳。  持ち上げた手を握り込み、開く、という動作を繰り返し、満足気に微笑むと、蘇芳は部屋を出て階段を下りる。  廊下の突き当たりのドアを開くと、礼拝堂に出た。  朝陽がステンドグラスを擦り抜け、磨きこまれた床に美しい光の絵を描き出す。     
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