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祭壇の上には乳白色のキリスト像が、天窓からの光に照らされ、幻想的な陰影を落としていた。
蘇芳は礼拝堂の中央に立ち、ぐるりと見回すと一つ頷く。
「申し分ない」
呟くと、一旦礼拝堂を出て、紙と筆を手に戻る。床に紙を広げると、容器に開けた墨に噛み切った指先から数滴の血を垂らした。それをたっぷりと筆に含ませ、紙の上に走らせる。微妙な強弱を付けて表わされるそれは、文字とも紋様ともつかず、ただ複雑に絡み合って白い紙を埋めてゆく。
器の墨がなくなる頃、鵜野はさっ、と筆を払って身体を起こした。
細く長く息を吐き出し、紙面を眺める。筆を置き、胡坐を組んで、両手の指を絡めるようにして印を結んだ。そして、口の中で何事か唱え始める。その声は低く地を這うように響き、礼拝堂の中に充満していった。
堂内を満たした声は、奇妙に共鳴し合い、ステンドグラスをビリビリと震わせる。やがて幾重にも重なった声が、うわん、と響くようになると、書きつけられたそれが、中心でぞろりと首をもたげた。見えない糸に釣り上げられるようにずるずると中空でとぐろを巻き、数分も経たぬうちに全ての墨は紙から離れる。そして紙面は何かに掻き混ぜられているかのように、ぐるぐると渦を巻いていた。
「 ―――― 我が声によりて、現れ出でよ。」
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