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 渦巻く紙面に、ひらりひらりとひれのようなものが浮き沈みしたと思うと、渦の中から鯰と人を掛けあわせたような奇妙なモノが現れる。そのぬらりとした身体に、中空にあった墨が鎖のように巻きつき、明滅しながら吸い込まれていった。 「お前に名を与えよう。……ダゴン。こやつが御執心の神の眷族の名だ」  どんよりと濁った藍色の瞳を一つ瞬かせ、床の上を滑って鵜野の前で頭を垂れる。ぬめった光を返すその頭を一撫でして、鵜野は口の端を吊り上げる。 「我が鬼に堕としてやった志木の弟子を、こちらの駒に引き込むか。現代の術師がいかほどか、お手並み拝見だ」  その呟きに同意するように、ダゴンが長い身体を巻きつけるようにして寄り添った。
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