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 十夜の先導に従って辿り着いたそこには、穴だらけになった結界の残骸と、真っ二つに割れた封印石と思しき岩があった。  片膝をついて岩の断面に触れてみる。  刃物で切ったかのようなつるりとした断面に、小さく片眉を上げた。岩の周辺を丹念に調べていると、変色して四方がぼろぼろになった紙切れを見つけた。慎重に摘まみ上げ、そろりと広げてみると、それは符だった。  流麗なその筆跡に、酷く懐かしさがこみ上げる。  確かに、師の筆跡だった。  引き取られてすぐの頃、鼻歌交じりに書きつけた呪から、小さな蝶を生み出して見せ、驚く自分に悪戯っぽく笑った師の、優しい眼差しを思い出し、そっと古びた紙を撫でた。  しかし、良く残っていたものだと思う。  大して風化もせずに、端が朽ちているとはいえほぼ原形を留めた形で。紋様のようなそれをじっと見つめて読み解く。師の考案した強力な封じの符。 「―――― さすが、先生」  その複雑さと緻密さに、思わず感嘆の声が漏れる。  元々は相当に強力な物のようだったが、千年も経てばさすがに摩耗したらしい。符からは微弱な力しか感じられなかった。     
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