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 封じの岩だけは念入りに選別されたものか、未だに清廉な気配を漂わせている。符も結界も使い物にならないなか、この岩だけが辛うじて鵜野をここに縛っていたようだ。  符をそっと折り畳んでジャケットのポケットに入れ、ぐるりと辺りを見回す。その足元で十夜が空を見上げて、ひくひくと鼻を蠢かせた。  ぴく、と耳が動き、楕円に緩んでいた瞳孔が、ぎゅう、と細くなる。 『――――― 来るぞ、朱雀』 「ああ、そうみたいだな」  十夜と同じく空を見上げた朱雀の目に、鈍色から黒く色を変え、渦を巻き始める雲が映る。時折、雲の合間を音も無く稲光が走り、それを追うように、何か白っぽい物がちらちらと覗いた。  朱雀と十夜は身構えながら、目を細めてそれを見極めようとする。次の瞬間、一際大きな稲妻が光ったと思うと、それを背負うようにして、巨大な鯰のような奇妙なモノが姿を現した。長い身体をくねらせて、悠然と降りてくる。歪な鯰がおもむろに口を開いた。上下に鋭い牙を備えた口の中心に、ぽつりと生まれた光が急速に膨れ上がる。朱雀はすい、と右足を前に出し、十夜を自分の陰に入れると、右手を鯰に翳した。  その足元から円を描いて起こった風が、螺旋状に上空へと向かって吹き上がり、朱雀の髪を揺らす。  太陽と見紛うほどに巨大になった光球を鯰が放った。     
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