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 朱雀の掌の先に集まった風が、音を立てて渦を巻き、その光球を受け止める。  押し破ろうとする力と、押し戻そうとする力がせめぎ合い、ぎしぎしと軋む音を立てる。片目を眇めた朱雀は、ちらりと光球の向こうの鯰を見やった。  ざっと見る限り、鵜野の姿は認められない。ひそりと、足元の十夜に囁いた。 「鵜野が潜んでるかもしれない」  上空の鯰に見入っていた十夜が、はっとしたように『分かった』と返して、辺りに注意を向ける。改めて、眼前の光球を見据えた朱雀の双眸が、一つ瞬いた後に赤く変じた。同時、翳した掌の中心に、ゆらりと炎が姿を現す。  瞬く間に燃え上がった炎を風が吸い上げ、勢いを増しながら渦を巻いて炎の盾を作り上げた。  風がゆっくりとすり鉢状に形を変え、次第に光球を飲み込もうとする。それに気付いたのか、鯰が金属を引っ掻くような耳障りな鳴き声を上げた。  それはそのまま辺りの空気を震わせ、衝撃波となって朱雀と十夜を襲う。だが、それは両者の間にある風の膜によって勢いを殺がれ、下草を揺らすに留まった。 「うるさく鳴くことしかできないなら、失せろ」     
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