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「礼には及ばぬ。どうだ、不老不死を手に入れた感想は」
「頼んだ覚えはない」
睨めつけたまま吐き捨てるように答えた朱雀に、鵜野はわざとらしく目を瞠ってみせる。
「誰もが欲しがる不老不死だぞ。嬉しくないのか」
「だったら、欲しいって奴にくれてやる」
「―――― そうか」
にぃ、と鵜野の口が三日月のような弧を描く。
『朱雀 ! 』
背後に異様な気配を感じたのと、十夜の鋭い声が飛んだのが同時。振り向くより早く、朱雀の背後に青白く発光する方陣が展開した。二重に敷かれた方陣は、互い違いに回転を始め、その向こうで金属を擦り合わせるような咆哮が響く。
鯰がこの方陣を支えているようだった。
「いらないのなら、我が有効利用してやろう」
言いながらゆったりと朱雀の前に立つ鵜野の右手に、小さな方陣が出現する。
まるで凍りついたように体が動かず、足元で毛を逆立て、鵜野に威嚇の声を発する十夜に、逃げろと告げる事も叶わない。朱雀は歯噛みしたい想いで目の前の鵜野を鋭く睨めつける。
その目を見返して、鵜野は楽しげに手の中の方陣を朱雀の胸に翳した。
背後の方陣に呼応するようにゆっくりと回転するそれの中心に、鵜野が無造作に手を差し入れる。
骨ばった手が方陣の中へ消えて行く。
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