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「さて。我の撒いた種を芽吹かせるとしようか」
くつ、と喉で笑って囁いた鵜野は、ぐるりと手を回した。
途端、焼けつくような痛みが胸の内側を襲い、朱雀は息を詰める。指先がほんの僅か空を掻くように動いた。
鵜野は手元に目を落とし、思案気な面持ちで手を動かす。
「…… ふむ。志木め。巧妙に隠しておるな」
僅かに苛立ったような声音で呟いて、鵜野の手が乱暴に動く。十夜がシャア、と威嚇の声を上げながら鵜野の手に飛びかかり、しがみつくようにして渾身の力で噛みついた。
「っ ! この獣風情が、何をする! 無礼な! 」
白銀の瞳がぎらりと光り、十夜は見えない何かに弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。そのままぐたりと身体を投げ出して動かなくなった猫を目だけで見やって、朱雀は奥歯を噛みしめた。
ふ、と鵜野が目を瞠り、次いで嬉しそうに笑う。
「―――― 見つけたぞ。さあ、目覚めよ、鬼」
歌うような口調で言うと、朱雀は自分の中で何かがぱきん、と弾けるのを聞いた。
次の瞬間。
髪の毛が白く色を変え、こめかみから後頭部へ向けて象牙色の角が伸びる。白い睫毛に縁どられ、赤い双眸が際立って見えた。指先には長く黒い爪が備わる。
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