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はっとしたように、凪子は窓の外に目を向けた。
「朱雀? 」
半分ほどコーヒーの残ったカップを手に、ぽつぽつと雨が降り始めた空を睨む凪子に、美羽が首を傾げて声を掛ける。
「凪子サン? 」
呼びかけに答えず、凪子は目を眇めるとカップをテーブルに戻した。
「やられた。朱雀が向こうに堕ちた」
「えっ」
大きく目を瞠った美羽は、次いで訝しげに眉を顰める。
「―――― まさか、寝返ったんですか」
「そうじゃないわ。でも、鵜野に持って行かれた」
あっさり否定した凪子に幾分ほっとしたように表情を緩めた美羽は、思い付いたように訊ねる。
「でも凪子サンとの契約もあるのに、そう簡単に堕ちますか? しかも、あの朱雀が」
「元々、朱雀は鵜野の術を受けて鬼になったんだもの。それを透平が制御した。――― 本来なら、本人の意思を封じ込め、自分の傀儡(かいらい)にできるような術だったんでしょう」
「じゃあ、透平が施した術を破って、本来の術を発動させた、ってことですか」
「そう。ただ、今の朱雀には私との契約がある。当然、鵜野も気づいているでしょうけど。私と魂を分け合ってる使役を横取りなんて」
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