36人が本棚に入れています
本棚に追加
俺が窓の外の様子を恐る恐る見ると亡霊のようにさ迷う狂った数人の男達が、俺達の住む街へと現れ欲のまま破壊行動を始めているのが見えた。
灯りの無い、薄暗い街を彷徨う狂気に満ちた存在を、月明かりが照らす。男達の姿は確かに人の形をしているが遠目でも解る濁った赤い瞳、奇怪的な行動、その全てが獣じみていて、同じ人間だと思えなかった。
街がいつもに増して静まり返っていたのは、このせいだったのだ。俺は母さんを見る。
「大丈夫よ、あの人が、来てくれるわ、助けてくれるって言っていたもの」
「本当に、来る?」
「来るわよ、大丈夫。ここに居れば安全よ」
すっかり逃げる機会を失った俺と母は男達が過ぎ去るのを祈った。しかし祈りも虚しく、男達は一軒一軒ドアを壊し中に入り、隠れていた住民を引きずり出し、その体を簡単に引き裂いた。助けはまだ来ない。
俺は窓からその光景を見る。実際はその光景ではなく男達の動きを見ていた。逃げるタイミングを窺うためだ。それでも口からは悲鳴が洩れそうで、慌てて両手で口を塞ぐ。落ち着くために深呼吸をした。嫌な汗が背中をつたうのを感じる。俺は助けなど端っから期待していなかった。いざとなったら自力で逃げなくてはならないと分かっていた。俺が母さんを守らないといけないんだ。
狂った男達に躊躇いはない、人を人として見ているだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!