プロローグ

4/4
前へ
/115ページ
次へ
「ウタウタイさん、その続きは、どうなっちゃったの?」 「さて、どうだったかな」  少年は頬を膨らませ、拗ねながら俺に抱きつきせがむ。俺はふと澄み渡る青い空を見上げた。暖かくて、眩しい。  風が花の甘い香りを運び、心地良い。  視線を下ろし、丘から見える寂れた街並みを見る。これが過ちの代償だと言うのならば。酷な話だ。 俺は己の名すら遠い昔のあの日に忘れ去った。俺はただ、悪戯に生き残ってしまったのだ。  全てを失った俺には何もなく、抜け殻のようだっただろう。  だがそんな俺にも残っているものがあった、それは全てを失った日に聴いた優しい「歌」それだけだった。  本を閉じる。これは誰かの物語ではない。 「お話の続きを謳おう」  少年は、目を輝かせ大きく頷いた。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加