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華は歌い続ける01
母さんの手に引かれ俺は夜の街を走り続けていた。
「なんで……」
俺の声は複数の足音と男達の奇声にかき消されてしまう。
どれほどそうして走り続けたのか分からない。走り続けた足は感覚を失っていて、今にも倒れてしまいそうだ。それでも尚、俺達は数人の男達に執拗に追い回され続けていた。
「もう、無理……走れない」
「頑張るのよ、あと少しだから」
あと少しとはどのくらいなのだろう。だが、立ち止まればその瞬間に死んでしまうかも知れないという事だけは、俺にも分かっていた。
母さんは俺の手を強く引き走り続ける。母さんは女で一人俺を育ててくれた、優しく逞しい自慢の母親だ。色白で、よく美人という言葉で褒められていたのを聞いたことがある。
普段は朗らかに笑ってばかりいる母だが、今ばかりはその顔も強ばっていた。
「……どうして」
どうして俺達は追われているのだろう。少し前まで、自由に食べ物を食べて好きな時に温かな部屋で眠ることだって出来たのに。ろくな食事をしていない俺の体力はもう限界をとっくに越えていた。
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