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俺が産まれた頃はまだ世界は表面上穏やかだったようだ、裏で何があったかなんて俺は知らなかったし知る術もなかった。誰かが異常気象だとか、食糧や水が足りないと言っていたが、それでも食事は、普通に食べられていたし命の心配などしなくて済む生活を送っていて、それが当たり前で、普通で、ずっと永遠に続くものなのだと漠然と思っていた。
それでも多少不安を抱えていたが、街には活気が溢れ人は常に豊かさを求め追求し続けていた。誰もが今日より明日が、明日より未来がもっと豊かなものになると信じて疑わなかっただろう。俺もそんな未来を夢見ていた。
「あ……」
昔公園だった筈の場所の前を通る。その時一瞬取り残されたボールが目につく。
俺が物心ついた頃にはもう、外に行くことは禁止されていた。でも母の言い付けを破り一度だけ外に出たときに、この公園に来てみたが、ここで遊ぶ者は誰一人居なかった。昔は遊具を取り合っていた筈なのに。急速に不安が募り俺は慌てて家に戻ったのをよく覚えている。
どうして外に出れないか母さんに問うと、マヤクという人を狂わせる薬を使っている人が沢山居て、その薬を使った人は人を襲うのだと教えてくれた。
特に俺と母さんが暮らしていた都心部の荒れ具合は酷くて、それまで俺達家族と表向き仲良くしていた隣家の人間達も一人、また一人と都心にあるこの街から離れ少しでも安全と思われる地方へと逃げた。
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