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男は俺に自分が「ディオ」の創設者だとか豪語し厭らしい笑いを浮かべる。
当時、外の情報が上手く入って来ないという状況の中でも、「ディオ」という言葉は知っていた。政府がこの国を見捨てる最後の時に、自衛隊等の組織に属する志願者と一般人による有志を募り結成した、軍事主力部隊「ディオ」という組織があるらしい。
母さんが、救いを求めた相手はその「ディオ」の自称創設者という男だった。だが、確かな証明はどこにもない。それでも母さんは、藁にも縋る思いでこんな胡散臭い男の誘いに乗った。いや、乗るしかなかったのだ。
男は俺達家族と、この街を守ることを約束し、母を連れて行った。何も出来ずただただやり場のない怒りと悲しみと表現出来ない感情に俺は押し潰されそうになりながら、男が出て行くのを待った。
俺が近寄ると虚ろな瞳の母さんが壊れたように笑って、それから強く俺を抱きしめた。もう俺達は限界に近かった。
月明かり以外、明かりの無い不気味な夜。
折り重なった家具の上に肩を寄せ合い一枚の汚れた毛布にくるまり眠っていた俺と母さんは、不安を感じる程静まり返った街の静寂を破る奇声に、目を覚ました。
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