無刀取り

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無刀取り

「無手にて刀を握った対手を制する技だと?」 「は」  十兵衛は父を前にかしこまった。宗矩は十兵衛を一瞥し、長く息を吐いた。 「我が父は無刀取りの妙手を研鑽していたが」 「では、それを小生に伝えてくだされ」 「待て、十兵衛。お主、何に対して命を懸けている?」  宗矩はいぶかしんだ。十兵衛の顔は真剣だ。命を懸けて戦に臨む者の顔をしている。  一体、何があったというのか。 「――止めまする」 「何を」 「城下を騒がす辻斬りを」  十兵衛の言に宗矩は眉をしかめた。  最近、城下では女ばかりを狙った辻斬りが起こっている。  下手人が誰かまで察しはついているが、同心達は手を出せずにいた。 「お主、何を言っているかわかっておるか」 「止めまする、父上。事が仕損じれば、小生は腹を切る覚悟でござる」 「お主一人の腹では済まぬ。わしも斬る事になろう。……道場へ参れ」  十兵衛と宗矩は屋敷内の道場に移り、尚も話しこんだ。 「では刀を持つな。匕首も許さぬ。よいな」 「は」 「組打の術は、擦り合わすほどに身を寄せあったところに真髄がある」  宗矩は稽古袴に、左手に刀を鞘ごと握っていた。対する十兵衛は稽古袴だが無手であった。     
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