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「……それ、暗に『気づかれずに上手いことやれ』とプレッシャーかけてますよね」
驚きすぎて敬語で話すのも忘れていた。
こんな人でも年上で、あらゆる武道に精通した体術の達人である。化け物並みに強いのは、この雛森家の次男、岬のことだった。
「俺はおまえのそういう敏いトコを買ってるんだよ」
にんまり性悪なネコのように笑い、
「じゃ、よろしくなぁ」
と、岬は巨大爆弾を落とし、言いたいことだけ言って、さっさと去った。
入学式当日。
薫と碧は、ちょうど今現在、薫が生徒会室の窓から見下ろしている桜の下に、真新しい制服に身を包んで肩を並べて立っていた。
碧は愛想がないとか可愛げがないとか言われるが、その実、情感が豊かだ。
ふと黙り込むから「どうかしたのか」と問うと、ウグイスのさえずりにそっと耳を傾けていたりする。それが蛙の鳴き声だったり、車の走る音だったり、空にたなびく雲の色だったり……対象となるものは、その時々によって違うけど。
すぐ上の兄である望が芸術家肌なのでその影響かとも思うが、たぶん本人の資質でもあるのだろう。
整っているからこそ余計に表情の乏しい顔は愛想がなく見え、ともすれば仏頂面にさえ見られがちだ。笑顔も少ない。
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