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顔から手が引き離された。まともに相手の顔を見ることができなかったが、小野坂がきちんと目を見て話そうとしていることだけは分かった。
「う、ん……」
「良かった」
掴まれたままの手首が熱い。それが自分の熱なのか小野坂のものなのか分からない。
外のグラウンドから準備運動の号令が聞こえる。
「オレらも行かなきゃ……」
「そうだね」
ほら、と小野坂に手を引かれて教室を出た。
階段を降りた所までは良かったのだが、小野坂はそこから左側の廊下へと進んでしまった。この先は特別室や文化部の部室のある旧校舎なので外には出られない。
「あの、小野坂」
足を止めると手を掴んでいた小野坂も立ち止まって振り返った。
「どうした?」
「昇降口そっちじゃないよ……」
「違うの? 早く言ってよ」
「……ごめん、自信満々で歩いてるから知ってるんだと思ってた。あと手、離して……」
「悪い。ずっと掴んでた」
パッと離された手首をどこからか吹いてきた風が撫でる。熱から開放されて少し寂しい気もした。
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