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来た道を戻り昇降口から出るとジリジリとした暑さが肌を焼いた。グラウンドまでのアスファルトも夏の日差しを照り返して眩しい。
「……先生に何て言い訳しようか」
結局15分も遅刻してしまった。最大の原因は囲まれてしまった小野坂だったのだが、それでも任された側としては転校して早々授業に遅れさせてしまったことに罪悪感を覚える。
「遅れたのは俺のせいなんだから、芳野が気にすることはないよ。言い訳も俺がするからさ」
「……うん、分かった」
グラウンドに出ると今日の授業はサッカーだったらしく、生徒はいくつかのグループになってパス練習をしているところだった。
「あー! お前ら今まで何やってたんだよ!」
遅れてやってきたことに気づいた横田がこちらに走ってきた。
「何か、色々あって……」
「俺に付き合わせちゃったんだよ」
「そうなの? まあ、何でもいいや。俺らもあっちでパス練しようぜ」
「その前に先生のとこ行ってくるね」
「おう!」
そう言うと横田はグループへと戻っていった。
体育担当の斎藤は去年赴任してきた小太りの若い男性教師だ。穏やかな性格の先生なのだが、理由のない遅刻や欠席には厳しい先生だった。
「やっと来たか、お前ら」
「すみません……」
「小野坂だったか? 転校初日に遅刻とはなぁ。芳野も真面目なやつだと思ってたんだけどな」
斎藤は腕を組んでうーん、と唸っている。評価を付けあぐねているのだろうか。
「あの、芳野は悪くないんです。俺が、ちょっと腹下したり道に迷ったりしたから」
腹下した、は嘘だが上手く誤魔化そうとしてくれている。
「とにかく、遅刻は遅刻だ。片付けはおまえら二人にやってもらうぞ。まあ、小野坂は初日だし芳野も普段はちゃんと授業受けてるしな。ペナルティはこれだけにしといてやる」
お前らもパス練行け、とあしらわれた。
授業の後半は試合形式でプレーをした。バスケだけでなくサッカーも上手かった小野坂が女子たちを湧かせていた。
そのせいかクラスの男子の中には、小野坂の人気を面白く思わない奴らも現れるようになった。
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