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「おっまたせー!」
横田が定食のお盆を持って来た。今日は焼き魚らしく、香ばしい匂いが食欲をそそった。
「いやー、めちゃめちゃ混んでたわ」
「お、おう、ヨコ! お前A定食か! いいよなー、焼き魚!」
横田の登場で話が逸れてしまったのだが、牧田の「聞くなオーラ」がすごいのでそのまま詮索するのをやめた。
「ん? どしたの、マキちゃん。そんなに魚食べたいの?」
どう見ても不自然な態度なのだが、横田は気が付いていないようだった。
「俺の肉一切れと、お前の魚一切れ交換しよう」
「その取り引き、乗った」
馬鹿馬鹿しいやり取りだが、深く聞かれたくなさそうな今の牧田にとって横田は救いの神だったのだろう。
「そうだ。海に行く話、周も行くってさ!」
魚と米を交互に口にかきこみながら今朝の話を持ち出す。
「んで、小野坂クンに相談なんだけど、夏休みに俺らと海行かない?」
「海?」
「と言っても、働かされるらしいけどね」
横田とトレードした魚を頬張りながら牧田が付け足す。3泊4日の旅行と銘打ってのアルバイトのようなものだ。
「芳野も行くの?」
「う、うん……」
行くと決めたのだが、やはり少しだけ不安があった。
「芳野が行くなら、俺も行こうかな」
小野坂がにっこりと笑って返事をすると横田は大喜びした。
「さすが『イケメンキラー』の周くん! さっそく小野坂クンも虜にしたってわけかー!」
食堂という大勢の学生がいる中でも、声の大きい横田の“イケメンキラー”というワードはよく響いたらしい。そこかしこからざわざわと噂する声が広がる。
「なあ、『イケメンキラー』って何?」
隆平が食いついてくる。
「……ヨコの馬鹿」
少し腹が立ったので、横田の定食のお盆からデザートのプリンを取って頬張った。
「ああっ! 俺のプリンちゃん……!」
「ははっ、今のは横田が悪いな」
クラスでのやり取りを知っている小野坂のお墨付きを頂いたので、遠慮なく奪った甘味を味わうことにした。
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