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「さて諸君。夏休みまであと2日、海旅行まであと3日となったわけだが」
昼休み。いつものように食堂に集まり昼食をとっていると、横田が「旅行のしおり」と可愛いポップ体で書かれた冊子を配り始めた。
「ここには旅行の心得が書いてある。お前ら、よぉーく読んで準備しておいてくれたまえ」
「何これ。小学生かよ」
「この表紙、ヨコが描いたやつだろ? ウサギ? アメーバ?」
相変わらず隆平と牧田は、間に座った横田をイジってはケラケラ笑っている。
「な……! もう、うるさいなぁ! これはイルカだよ、イ・ル・カ!」
表紙の絵を指しながら口やヒレの場所を説明しているが、それでもイルカには見えないくらいには残念な絵心だった。
「これは……、ちょっとイルカには見えないかな」
「オレも隣に同じく」
「何で!? 周と圭ちゃんは俺の味方じゃないのかよ!」
小野坂はこの1ヶ月でだいぶ馴染んだ。本人からの申し出で名前で呼ぶことになり、それからはいっそうグループに溶け込んだ。どうやら、アメリカにいた時に苗字で呼ばれなれていなかったため、「小野坂」と呼ばれると本人曰く「ゾワゾワする」んだそうだ。
拗ねた横田は両頬を膨らませる。すると両脇の二人がその頬を指で突き空気を抜く。小学生みたいな三人を向かいの席から微笑ましく眺めた。
「とにかく、朝6時に駅集合だから。切符はその時渡すね」
手で両頬をガードしながら横田は言った。なんとも間抜けな格好だが、二人の突き攻撃には効果抜群らしい。
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