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「あ! 俺、島ちゃんに呼ばれてたんだ!」
横田は慌てて立ち上がり、食器を片付けて担任のもとへと行ってしまった。
「慌ただしいやつだなぁ」
「リュウ、俺らも次移動だから早く行かないと」
「そうだな」
じゃあな、と二人も行ってしまった。6人掛けのテーブルに小野坂と二人取り残されてしまった。つい先程まで狭く感じたテーブルも、持ってきた弁当箱と小野坂の定食のトレーしかない。
「海、楽しみだな」
小野坂が呟いた。
「俺、海って初めてなんだ」
「そうなの?」
「向こうではカンザスに住んでたんだけどさ、海まで1500キロ以上あるんだぜ? とてもじゃないけど行く気になれなかった」
「1500キロ……」
「だから誘ってもらえて本当に嬉しかったんだ。アマネも楽しみだろ?」
小野坂の問いに戸惑った。
みんなと旅行に行くのはとても楽しみだ。その反面で海への恐怖心から憂鬱になっていたのも事実だった。
「もしかして、そんなに楽しみじゃなかった?」
「ううん……。旅行、楽しみだよ……」
歯切れの悪い返答をしてしまった。
「なあ、これは聞いてもいいこと?」
「え……?」
小野坂は真っ直ぐ目を見て尋ねてくる。
「海の話をすると顔が曇ってたから。だから、これは俺が聞いてもいいことなのかなって」
小野坂の転校初日、同じようなことを言われた気がする。その時のこともあって言っているのだろう。
「別に無理に聞こうって訳じゃないから」
やはり、彼の根本は優しくて真面目なのだ。無闇に詮索しない性格がとても嬉しかった。
「……う、ん。……あの、話すよ、……圭汰には」
だから、心の奥底に沈めていたものを、ほんの一部だけだが、小野坂になら話してもいいと思ったのだった。
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